「薔薇」
『占の城 千夜物語』がまだレジャックビルにあった頃の話
レジャックにあった頃の千夜物語の鑑定ブースの配置は独特だった。
入り口から2ブース、
その奥にバックヤード、
バックヤードに入らず左に行くと1ブース。
ブース入り口にはそれぞれカーテンが掛けてあるが
バックヤード以外はカーテンを開けておくのが基本で
どのブースからも受付を見る事ができた。
その日の鑑定師は外山先生、
河本と既に千夜物語を去った青藍先生(仮名)の3人。
いちばん奥のブースに外山先生、
入口にいちばん近いブースに青藍先生、
バックヤードに近いブースに河本が陣取り鑑定していた。
占い屋はお客様がひっきりなしにご来店する商売でもない。
お客様を待つのも仕事のうち。その時は外山先生と河本がお客様を鑑定していた。
鑑定中は暦を見たり、カードを並べたりと
意外にお客様をじっと見つめる事は少なく
それがお客様には不誠実な対応だと感じられてしまう事もあるかと思うが
占術によっては仕方のない事なので許して欲しい。
卓にカードを並べ俯いた状態で鑑定中、
ふと俯いたまま目線だけ少しあげると
ヒラリと長いフレアスカートがお客様の後ろを通りバックヤードに入って行くのが見えた。
正面にはお客様がおり、
伏目がちな目線からスカートの主の顔を確認する事はできなかったが
雰囲気で運営のユウさんが来たと直感した。
しかし、他所ごとに気を取られては仕事にならぬ。
さっと意識を戻し無事鑑定を終えた。
程なくして外山先生も鑑定を終えブースから出てきた。
「外山先生、さっきユウさん来ましたよね?バックヤードに入っていったのは見たけど帰られたの見ました?」
河本がいたブースとバックヤードは薄い壁が1枚あるだけ。
バックヤードからは気配もなく物音ひとつしないので心配になって覗いてみたが誰もいなかった。
ただ自分が鑑定している時はとにかく喋るので退出に気が付かなかったことも充分考えられる。
「ユウさん、確か鑑定中に来たよね?スカートだけチラッと見えたんだけど」
外山先生も鑑定中に気がついたという。
「えっ、誰も来てないけど」
隣のブースから青藍先生の声。
青藍先生はユウさんが来たと思われる時間は鑑定しておらず、
また青藍先生のブースの前を通らねば店内には入れない。
見落とす筈がない。
「確かにしっかり顔を見たわけじゃないけど誰か奥に…」
河本と顔を見合わせそう言う外山先生に
「誰も前を通ってなんかないわよ?」
と不思議そうな顔で答える。
青藍先生は嘘をつくような人ではなく信頼できる先生だ。
「外山先生もスカートをご覧になったんですよね?どんな柄でした?せーので言いませんか?」
河本の申し出に外山先生が頷く
「せーの」
『白地に黒色の大きなバラの花柄のフレアスカート』
同じだった。長さや質感も違う事なく。
その後も外山先生と河本が一緒のシフトになると
色々不思議な事が発生したがその事はまた次の機会に。
文章:河本 享