お電話はこちら: 052 551 7777
スマホ用メニューはロゴ下の " Menu "の文字 をタップ
お電話はこちら: 052 551 7777

千夜物語で百物語 第四夜「大家と店子」河本 享

「大家と店子」

 

以前住んでいたマンションでの事である。

田舎なので大家さんの母屋、
離れと同じ敷地に建つ新築中低層賃貸マンション。
立地条件は良く完成と同時に入居した。
同年代の店子も多くご近所付き合いも苦ではなく
会えば挨拶や立ち話をするような友達も何人かできた。

ある日御高齢だった大家さんのおばあさまが亡くなったようだと友達のひとりから電話があった。
詳細はわからないが今日がお通夜だと言う。

たまたま葬祭業者の方をお見かけしその事を知り、
店子としてお通夜に参列すべきかとの相談だった。

同じ敷地内に建っている賃貸物件の店子だがこの時代、
建物管理は管理会社が仲介し、直接大家さんとやり取りする事もない。
数人の店子達で話し合って敢えて参列しないことにした。

そして夕方、
室内でゴソゴソしているとどこからともなくお線香の香りが漂ってくる。

ああそういえばそろそろお通夜の時間か。

しかしさすがお線香、
同じ敷地といってもだだっ広い駐車場をはさんで6階まで
線香の煙は上がってくるものなのだなぁと呑気に同居人に尋ねてみた。

「お線香の香りってここまで漂ってくるもんなんだねぇ」

「線香?そんな匂いしないよ?」

「いやさっきからふわふわ漂ってるって」

外に出てたら香りの出所がわかるだろうと慌てて掃き出し窓を開け
ベランダに出てみたがベランダでお線香の香りはしない。

また南からの風で大家さんのお宅はマンションより風下になる。

やっぱりお通夜、行っておいたほうがよかったのかもしれない。

 

文章:河本 享

 

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

関連記事