「ソワレの前に」(後編)
有料公演はかつての芝居仲間が会場係として公演をサポートしてくれる。
そんな仲間の存在は必要不可欠だ。
「マチネのチケットはほぼ完売。自由席だから空いている席をきちんと把握して遅れてきたお客様を上手くご案内して」
おかみさん役が当たり役だった元芝居仲間がちゃきちゃきと他のスタッフに指示をとばす。
芝居の幕が開けると空席の場所を確認し会場係は一旦休憩。
「今、8列目の真ん中辺りにひとつ、15列目端から3番目辺りにひとつ空いてる感じかなぁ。」
モニターを確認して若いスタッフが空席状況を把握。
劇場のドアからかすかに漏れ聞こえる芝居の音響。
前日のゲネプロを観ているのでおおよその場面が想像できる。
暗転中や転換中で芝居に影響が出ないタイミングをねらって席まで誘導するため芝居の進行にも気をつかうのだ。
芝居が佳境に入る少し前、
ふたり連れのお客が汗を拭き拭き会場へ。
ご案内できる席が離れてしまうなぁと会場係はモニターで空席を確認する。
するとどうだろう先程までひとつしか空いてなかった8列目の空席の隣も空いている。
気にはなるが芝居の進行もあるので急いで席に案内し、再度空席を確認。空席残数1。
「ねぇ誰かお客様が帰られたの、見た?」
案内から受付に戻った若いスタッフが待機スタッフに確認する。
この劇場は出入り口が少なく
演出やセキュリティ上の理由で上手に続くひとつの出入り口を封鎖し
警備係を置きどの出入り口から出ても必ず受付前を通らねば外には出られないようになっていた。
立ち見ができそうな空間はあるが
そこも演出上の理由で客が入らないよう監視の目があり立ち見をしていた客を見た人はいない。
そこまで広くない客席で誰か立ち上がれば
目立つしモニターに映らないわけがない。
芝居が終盤に差し掛かる前に最後まで空いていた席にもお客が入りマチネが終わる。
もぎった半券の枚数からも満席が確認でき、
『満員御礼』と楽屋に歓喜の声があがったのはソワレの前だった。
文章:河本 享